大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)5978号 判決

原告 破産者株式会社丸晴破産管財人 高橋寿一

被告 紀繁商事株式会社

主文

被告は原告に対し、別紙〈省略〉物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録記載の各登記の否認登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

一、原告は請求の趣旨として「被告は原告に対し、別紙物件目録記載の物件につきなした別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として

(一)  株式会社丸晴は昭和三八年一二月一〇日支払停止をし、同月二八日債権者訴外嶋野元秀から東京地方裁判所に破産の申立がなされ、同裁判所は昭和三九年六月三〇日午前一〇時に同庁昭和三八年(フ)三五五号事件の決定として右会社を破産者とする旨を宣告し、同時に原告がその破産管財人に選任された。

(二)  別紙物件目録記載の物件は右破産財団に属するものであるが、破産者は、破産申立前三〇日以内の昭和三八年一二月七日被告との間で被告に対する既存債務を三、三一二、二一五円と称して同物件につき極度額三千万円の根抵当権設定契約同債務不履行を停止条件とする代物弁済契約ならびに賃貸借契約を締結し、被告は同月二三日これを原因とする別紙登記目録記載の各登記を経由した。

(三)  しかしながら、右はいずれも各当事者において破産者の支払停止および破産債権者を害することを知つてなした行為であるから、原告は被告に対し破産法第七二条一号、二号、四号により各設定行為を否認し、別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続を求める。

と述べた。

二、被告は適式の呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、民事訴訟法一四〇条三項により原告主張事実を自白したものとみなす。

三、(一) 右事実にれば、前記一(二)の被告と破産者との間の各契約は破産法第七二条一号、四号に、同登記は同法七四条一項に該当することは明らかであり、原告の否認権の行使は理由がある。

(二) 原告は本件否認権の行使を理由として抹消登記手続を請求するけれども、破産法一二三条一項は登記の原因たる行為または登記が否認されたときは否認の登記をなすべきものと規定しており、否認の登記であれば破産取消、破産廃止などの場合に同法一二三条一項二項、一二一条、一二二条二項によつて被告は登録税の負担なく破産取消、廃止等の嘱託登記によつて自動的に自己の登記名義を回復できる立場にあることを考えるならば、否認権行使を理由として被告に抹消登記手続をなすことを命じることは破産法の負担せしめるところ以上の義務を被告に負わせる結果となるきらいがあるので、当然には許されないものと解するのが相当であるから、原告の請求は否認の登記を求める限度で認容し、その余を棄却することとする。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法九二条但書、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例